石川正年 1983年生 福岡県出身 渋谷横丁「渋谷バル」料理長兼メニュー開発ディレクター
調理学校卒業後、福岡から上京。広尾の有名イタリアンにて修行後、時代を飾った数々の人気レストランで最先端の料理を学び、若くして料理長も経験。その才能とセンスが外国人投資家の目に留まり、当時の中国では存在しなかった高単価多国籍レストランのオープニングシェフとして活躍。
「海外経験は貴重でしたが、当時の中国で高級レストランはまだまだ早かったですね(笑)。」
海外での経験で感じたのは日本における料理人のステイタス。
「日本の料理人は海外に比べてステイタスも給料も低い。料理人が日本でしっかり儲けようと思えば、独立して成功するしかないと思うんです。僕は独立して料理人の社会的地位を上げるきっかけも作りたい。料理人としては一通りのスキルは身につきましたが商売のスキルが足りていないんです。」
「渋谷横丁はコロナ禍でもとんでもない集客力を持っていますし、料理人への評価や給与が業界内でも非常に高い。繁盛店のノウハウを学ぶ為に独立前の最後の職場として選びました。料理人は入社前に希望すれば調理技術試験を受けられ、ポジションも給与も高く評価していただきスタートできました。」
渋谷横丁唯一の洋食ブランド『渋谷バル』料理長兼メニュー開発ディレクターとして入社。
「入社後、最初に言われたことは〝誰もが美味しいと感じるシンプルな料理〟これが盲点でした。今まで僕が作ってきたのは、色んな食材と調味料を使ったイタリアンファン向けのいわゆる〝凝った料理〟です。
渋谷横丁は学生、ファミリー、お年寄りまで客層が幅広い。渋谷に来た方が気軽に横丁に入り、たまたま渋谷バルの席に座られる方も多く、料理人のこだわりが強い複雑な料理を求めてはいません。
実際メニュー数は多いですが、それぞれが非常にシンプル。素材が産直なので値段も安くない。でも、オープンと同時に客席はあっという間に埋まり、オーダーは止まらず皆さんが美味しそうに食べている。まるでコロナが無かったかのような賑わいです(笑)。でも、これが答えなんですね。お客様は人と会いに、楽しみに来ているんです。だから、誰もがひと口で美味しいと思えるシンプルな料理が必要なんです。
子供からお年寄りまでがひと口で美味しいと思える料理って本当に難しい。僕が初めて提案した料理も『美味しいけどダメ』ってボツになりました(笑)。それをたくさん作れるのが本当のプロなのかもしれません。
今回のコロナ騒動で料理人はふるいにかけられると思うんです。これからの時代、自分のスキルを疑わず、景気が良かった頃の記憶が正しいと思っている料理人は必要なくなると思います。ひょっとしたら、そういう料理人が社会的地位を下げていたのかもしれません。
今まで多くの話題のお店で働いてきましたが、ブームは必ず終わりました。でも渋谷横丁はブームではないと思います。お店側が構えてお客様を招いているのではなく、お客様とスタッフが一緒になって気軽に楽しめる賑やかな場所を作っているような感覚です。独立を前に、商売人として、料理人として大切な事を体験出来て本当に良かったと思います。